- 更新日 : 2024年7月18日
実行予算とは?建設業における役割や内訳、作成方法をわかりやすく解説
建設業の「実行予算」とは、工事現場で実際に発生する工事費用を具体的に見積もった予算です。この記事では、実行予算の作成目的、具体的な作成手順や内訳まで、わかりやすく説明しています。
また、基本予算や見積、原価管理との違いについても触れています。実行予算の作成を効率化する方法や注意点も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
実行予算とは
実行予算とは、建設業において各段階で実際にかかると見込まれる費用をより具体的に算出した予算のことを指します。これは、工事の計画段階で立てた概算の見積りや基本予算をもとにして作成されます。
実行予算では、工事に必要となる材料費、労務費、機械リース費、経費などの細かい内訳が含まれ、工事の進捗に合わせて更新されることが一般的です。
工事の採算性を詳しく把握することができるため、建設業において欠かせない予算といえます。
実行予算と基本予算の違い
基本予算とは、工事全体の概算の予算を指します。工事の計画段階で立てる、概算の見積もりが基本予算にあたります。一方、実行予算は、この基本予算をもとに、プロジェクトの各段階で実際にかかると見込まれる費用をより具体的に算出した予算です。
実行予算と見積もりの違い
まず、見積もりとは、工事を受注するために発注者に提示する、概算の工事費用の見積もりのことを指します。一方、実行予算は、この見積もりをもとにして、プロジェクトの各段階で実際にかかると見込まれる費用をより具体的に算出した予算です。実際の業務に基づいて見直されます。
建設業における実行予算の重要性
建設業の現場では、様々な工事が同時並行で行われており、それぞれの工事に多額の費用が発生します。そのため、建設会社にとって、工事の採算性を正確に把握することは様々な面において重要になります。
以下で、それぞれのポイントについて見ていきましょう。
プロジェクトの成功に直結する
建設業における実行予算は、プロジェクトの成功に直結する重要な要素です。
例えば、大規模なビル建設プロジェクトでは、工事を進行する中で様々な不確定要素が発生することがあります。実行予算を適切に設定することで、各フェーズでの支出を正確に把握し、調整することが可能です。
これにより、コストオーバーランのリスクを最小限に抑えることができ、円滑にプロジェクトを進められます。
原価管理の基盤となる
実行予算は原価管理の基盤となり、プロジェクト全体の支出を管理するための基準となります。適切な実行予算が設定されていれば、コスト項目ごとの支出が計画通りに進行しているか確認でき、必要に応じて修正や調整を行うことができます。
例として、建設材料の価格が急に上昇した場合でも、実行予算がしっかりしていれば、迅速に対応策を講じることが可能です。
経営判断の基準となる
実行予算はプロジェクトレベルだけでなく、経営レベルの判断材料としても重要です。
企業が複数の建設プロジェクトを抱える場合、各プロジェクトの実行予算を元に総合的な経営資源の配分や投資判断を行うことができます。経営層にとって、実行予算は戦略的な意思決定をサポートする重要な情報源となります。
例えば、新しいプロジェクトに着手する際のリソース割り振りや資金調達の計画に役立ちます。
業績評価の指標として
実行予算はプロジェクトマネージャーやチームの業績評価の指標としても活用されます。
適切な実行予算が設定され、その予算内でプロジェクトが完遂された場合、高い評価を得ることができます。逆に、予算内での履行が難しい場合は、その原因を分析し改善策を検討することで、次のプロジェクトに生かすことができます。
例えば、工期遅れの原因を突き止め、次回の計画に反映させることで、より効率的なプロジェクト運営が可能となります。
実行予算の内訳
実行予算は、大きく分けると下記のような費用で構成されています。
- 材料費
- 労務費
- 外注費
- 機械費
- 現場経費
- 管理費
それぞれの費用について、詳しく見ていきましょう。
材料費
建設に使用されるコンクリート、鋼材、木材、塗料などの材料費を詳細に計上します。例えば、住宅建設において使用される木材の量と、それにかかる単価を見積もり、総額を算出します。
また、材料の品質によるコスト差も考慮に入れることが重要です。質の良い材料を使用することで、建物の耐久性が向上し、結果としてコストの削減にもつながることがあります。
労務費
現場作業員や大型機械オペレーターなどの労働力にかかる人件費を含みます。労務費は、労働者のスキルレベル、経験年数、地域の平均賃金などによって異なります。
また、労働者が夜間や休日に働く必要がある場合、追加料金が発生することもあります。これらを詳細に計上することで、予算のズレを防ぐことができます。
外注費
電気工事や配管工事などの専門技術を持つ外部業者に委託する費用を含めます。例えば、電気配線や配管システムの設計と設置のために専門の業者を雇う場合、その業者の料金とスケジュールが予算に直接影響します。
外注費を正確に予測するためには、複数の業者から見積もりを取り比較することが推奨されます。
機械費
建設作業に使用するクレーンやショベルカーなどの機械のレンタル費用や保守費用を計上します。
例えば、大型クレーンを数カ月間レンタルする場合、その期間中のレンタル費用だけでなく、機械の故障に備えるための保険費や保守費も含めて予算を立てます。また、機械の使用効率を最大化するために、操作員の訓練費用も必要です。
現場経費
消耗品費
建設現場で使用する手袋、ヘルメット、その他消耗品の費用です。これらの消耗品は定期的に補充が必要なため、予算にはある程度の予備費を含めておきます。特に安全関連の消耗品は重点的に管理し、不足が生じた場合にすぐに補充できるようにします。
通信費
現場での連絡や打ち合わせに必要な通信費用を含みます。例えば、現場作業員とオフィス間での連絡に必要な電話料金やインターネットの利用料を計上します。
特に大規模なプロジェクトでは、リアルタイムで情報を共有するためのタブレットや通信システムの整備も必要です。
交通費
現場への移動にかかる交通費用を計上します。作業員や管理者が現場とオフィス間を移動するための交通費や、材料や機械を運搬するための物流コストが含まれます。
また、遠方の現場では宿泊費も重要な要素となり、その分の予算も考慮します。
管理費
建設現場の管理にかかる費用全般を指します。具体例として、現場監督の人件費、事務所の維持費などがあります。
例えば、現場監督の月給と交通費、現場に設置される仮設事務所のレンタル費用や光熱費などが含まれます。さらに、現場の安全管理や品質管理に必要な監視システムやソフトウェアの導入費用も予算に計上します。
その他の費用
その他、特別な事情により発生する費用を含みます。例えば、天候不良による工事の遅延や、予期せぬ地盤の問題による追加工事費用などが考えられます。
また、地元住民との調整費用や、法的な手続きにかかる弁護士費用なども計上しておくと安心です。これらの予算を事前に立てておくことで、突発的な費用が発生しても迅速に対応できます。
実行予算を作成する手順
1.予算作成者の決定
実行予算を作成する上で、まずは予算作成者を決めることが重要になります。
予算作成者を決めることで、誰に責任の所在があるのか明確になるため、何かトラブルがあった場合に迅速な対応が可能になります。
2. 必要な情報の収集
次に、実行予算を作成するために必要な情報を収集します。これには、設計図面、仕様書、契約書、過去の実行予算や見積もりデータなどが含まれます。特に、
以下の情報を詳しく確認することが重要です:
- 設計図面:全体の構造やレイアウトを把握します。
- 仕様書:使用する素材や仕上げの詳細を確認します。
- 契約書:契約条件や納期を見積もるための基礎データを得ます。
- 過去の実行予算:過去のプロジェクトから得られるデータを参考にします。
- 見積もりデータ:市場価格の参考価格を確認します。
3. 各工事項目の詳細確認
各工事項目ごとに必要な作業内容を詳細に確認します。これには、施工順序や工期、必要な資材、作業員の人数などが含まれます。
- 施工順序:どの工程が先に行われるべきかを計画します。
- 工期:各工程に必要な時間を見積もります。
- 必要な資材:使用する資材の種類と量を確認します。
- 作業員の人数:それぞれの作業に必要な人数を見積もります。
4. 原価の見積もり
資材費の見積もり
使用する資材の費用を見積もります。市場価格や過去の購入履歴を参考にし、できるだけ正確な価格を算出します。また、資材の納品リードタイムや品質も考慮する必要があります。
労務費の見積もり
作業員の日当や時間単価を基に労務費を算出します。作業員のスキルや経験によって異なるため、それぞれの単価を考慮します。
機械・設備費の見積もり
必要な機械や設備のレンタル費用や購入費用を算出します。どの機械がどのタイミングで必要になるのかをしっかりと把握します。具体的には、重機のリース費用や運転手の料金も含まれます。
5. 管理費の計算
プロジェクト全体の管理費を算出します。これには、現場管理者の給与や交通費、通信費、その他諸経費が含まれます。現場管理者の給与にはボーナスや残業代も考慮し、交通費には通勤費や出張費も含まれます。
6. リスクの評価とリスク予算の設定
工事におけるリスクを評価し、その対応費用を予算に含めます。天候リスク、人手不足、資材不足などの不確定要素を考慮します。
具体的なリスク対応策として、予備費を設定し、緊急対応が必要な場合の費用も見込んでおくことが推奨されます。
7. 実行予算の最終調整と確認
すべての要素を集計し、全体の実行予算を作成します。最終的に予算が適正か、過不足がないかを確認し、必要に応じて調整を行います。
具体例として、建設プロジェクトでの資材費の過不足を防ぐために、逆算して各項目の費用を再検討します。
8. 実行予算の承認と共有
完成した実行予算を関連する部門や担当者に共有し、承認を得ます。必要であれば、修正点や補足情報も提供します。承認後は、各部門または協力会社と共有し、共通の理解を図ります。
9. 実行予算のモニタリングと更新
実行予算が承認された後も、プロジェクトの進行に応じて定期的にモニタリングし、予算の状況を確認します。予算オーバーや変更が発生した場合は、迅速に対応し、実行予算を更新します。定期的な進捗確認と、実行予算の修正履歴を記録することで、プロジェクトの健全な進行を確保します。
実行予算を作成する際の注意点
正確なデータを収集する
建設プロジェクトでは、正確なデータ収集が重要です。材料費、労務費、機械費などの詳細なデータを収集し、見積もりの基礎とします。
また、価格変動や市場の変化に応じて、データを定期的に更新します。例えば、現在の鋼材価格が高騰している場合、最新の価格を反映することで、実行予算が現実的で実行可能なものとなります。
精度の高い見積もりを行う
実行予算の作成には、精度の高い見積もりが求められます。過大評価や過小評価は避け、適切な範囲で見積もることが重要です。
見積もり時には、リスクも考慮しましょう。天候による工期の延長や材料費の急騰に備えた予備資金を設定しておくことが有効です。
また、専門家の意見や経験を活用して見積もりの精度を高めることが効果的です。建設業のプロフェッショナルや、過去の成功したプロジェクトのデータからインプットを求めます。
関係者と適切なコミュニケーションを取る
関係者との適切なコミュニケーションは欠かせません。透明性を保ち、定期的なミーティングなどを通じて関係者全員が予算内容を理解していることを確認しましょう。
また、すべてのコミュニケーションを文書化し、後で参考にできるようにします。メールや議事録を活用して、コミュニケーション履歴を残し、関係者全員が同じ情報を共有できるようにします。
コスト管理を継続的に行う
実行予算作成後もコスト管理は継続的に行う必要があります。予算オーバーを防ぎ、適切な資金配分を行います。
プロジェクトの進捗に応じて、定期的に予算の評価と調整を行うことも大切です。例えば、四半期ごとの評価で現在の支出と予算の比較を行い、異常な支出が発生していないかを確認します。
もしコストカットの可能性がある場合は、適切な提案を行います。無駄な支出を削減し、予算を効率的に使用します。材料の大量購入によるディスカウントを交渉したり、作業効率を上げるための新しい技術や機械の導入を検討すると良いでしょう。
実行予算の作成を効率化する方法
専用ソフトウェアの利用
実行予算の作成には、専用のソフトウェアを使用することで効率が大幅に向上します。市場には多くの建設業向けソフトウェアが流通しており、これらを活用することで作業の自動化やデータの一元管理が可能です。
見積ソフトの導入
見積書作成に特化したソフトは、多数の案件を効率的に処理するのに非常に便利です。これにより、手計算やエクセルによる手作業の負担を軽減できます。
原価管理システムの活用
原価管理システムを導入することで、材料費や人件費のリアルタイム管理が可能になります。これにより、コスト管理が容易になり、無駄な費用の発生を防ぐことができます。
テンプレートの活用
実行予算の作成においては、標準化されたテンプレートを使用することで、作業効率が向上します。テンプレートには項目ごとに入力すべき内容が定義されているため、ミスの発生を減らすことができます。
エクセルテンプレートの使用
エクセルテンプレートを使用することで、手早く予算書を作成することが可能です。テンプレートには計算式やフォーマットがあらかじめ設定されているため、入力するだけで自動的に計算結果が出ます。
クラウドベースのテンプレートサービス
クラウド上で提供されるテンプレートサービスは、複数人での共同作業に適しています。リアルタイムでデータを共有し、編集履歴も追跡できるため、チーム全体で効率的に作業を進めることができます。例えば「Google スプレッドシート」では、離れた場所にいる複数のメンバーが同時に編集できるため、コラボレーションが促進されます。
定期的な見直しと改善
実行予算の効率化には、定期的な見直しと改善が不可欠です。継続的なPDCAサイクルを回すことで、より効率的な方法を見出すことができます。
フィードバックの収集
チームメンバーからのフィードバックを収集し、問題点や改善点を洗い出します。これにより、実行予算の作成プロセスを最適化できます。フィードバックは、匿名アンケートや定例会議で集めることが効果的です。
改善策の実施と評価
収集したフィードバックを元に改善策を実施し、その効果を評価します。評価結果を元にさらに改善を重ね、常に効率化を追求します。具体的には、改善策の効果を定量的に測定し、数値で示すことで、次のステップへ進むための基盤を築きます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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