• 作成日 : 2024年8月8日

個人事業主の健康診断費用は経費にならない!勘定科目や医療費控除の条件を解説

個人事業主(一人親方など)が健康診断を受ける際の費用は原則として経費にはなりませんが、医療費控除の対象になるケースもあります。この記事では、個人事業主の健康診断がどこで受診できるのか、また、経費や医療費控除の扱い、健康診断に用いる勘定科目などを解説します。

確定申告で医療費控除を受けるための方法もお伝えしますので、健康管理と節税の両面から、個人事業主の健康診断についてしっかり理解しましょう。

個人事業主の健康診断の受け方は?

個人事業主(一人親方など)が健康診断を受けるには、主に以下の3つの方法があります。

加入している健康保険組合の健康診断

健康保険組合は、健康保険法に基づき設立された医療保険者です。健康保険組合には、種類がたくさんあります。代表的なもので建築、医師、薬剤師などの健康保険組合があります。

個人事業主の方が、健康保険組合に加入している場合、その組合が実施する健康診断を受けることができます。

【健康保険組合が実施する健康診断の例】

  • 特定健康診査(特定健診): 40歳以上の加入者が対象で、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診です。血液検査、尿検査、身体計測、血圧測定、問診などが行われます。特定健診を受けることで、生活習慣病のリスクを早期に発見し、予防につなげることができます。
  • がん検診: 国民健康保険組合によっては、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどのがん検診を実施しています。がんの早期発見・早期治療のために、定期的にがん検診を受けることが重要です。

健康保険組合の健康診断は、加入者の健康管理を目的として行われるため、費用の一部または全部が補助される場合があります。自分が加入している健康保険組合に問い合わせて、健康診断の内容や費用について確認しましょう。

自治体(市区町村)の健康診断

お住まいの自治体(市区町村)が実施する健康診断を受けることもできます。

自治体の健康診断を活用すれば、比較的低コストで健康管理を行うことができます。

ただし、実施時期や検査内容が限定的な場合もあるため、ご自身のニーズに合わせて、国民健康保険組合の健診や病院の人間ドックなども検討する必要があります。

【自治体が実施する健康診断の例】

  • 特定健康診査(特定健診): 国民健康保険組合と同様、40歳以上の住民が対象のメタボリックシンドロームに着目した健診です。自治体によっては、特定健診の対象年齢が35歳以上に拡大されている場合もあります。
  • がん検診: 胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどのがん検診を実施している自治体もあります。対象年齢や費用は自治体によって異なります。例えば、東京都では、胃がん検診は50歳以上、大腸がん検診は40歳以上、肺がん検診は40歳以上、乳がん検診は40歳以上、子宮頸がん検診は20歳以上の女性が対象です。
  • 肝炎ウイルス検診: B型肝炎やC型肝炎のウイルスに感染しているかを調べる検診です。40歳以上の住民が対象で、多くの自治体で無料または低額で受けられます。

病院・クリニックの健康診断(人間ドック)

病院やクリニックで直接、健康診断(人間ドック)を受けることも可能です。人間ドックは、一般的な健康診断よりも詳細な検査を行うことができるため、より深く自身の健康状態を把握することができます。

人間ドックでは、血液検査、尿検査、心電図、胸部X線、超音波検査、内視鏡検査など、さまざまな検査が行われます。これらの検査により、がんや生活習慣病などの早期発見に役立ちます。

また、人間ドックは、自分の都合に合わせて予約を取ることができるので、忙しい個人事業主にとっては便利かもしれません。ただし、人間ドックの費用は自己負担となります。そのため、予算に合わせて適切な検査内容を選ぶことが重要です。

個人事業主が健康診断を受けるべき理由

健康管理は自己責任のため

個人事業主は、会社員とは異なり、自分自身の健康管理に責任を持たなければなりません。健康を維持することは、事業を継続的に運営するために非常に重要です。

定期的な健康診断を受けることで、自分の健康状態を正確に把握できます。早期発見と早期治療は重要です。高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、放置すると心筋梗塞や脳卒中などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

年に1回の健康診断によって、これらの病気の兆候を早期に発見し、適切な治療を開始することができます。深刻な健康問題を未然に防ぐためにも、健康診断を受診することが必要です。

無収入のリスクを軽減するため

個人事業主が病気やケガで働けなくなった場合、収入が途絶えてしまうリスクがあります。健康診断を定期的に受けることで、深刻な健康問題を未然に防ぎ、事業の継続性を高めることができます。

万が一、長期間働けなくなった場合でも、早期発見・早期治療により、その期間を最小限に抑えることが可能です。

例えば、がんの早期発見・早期治療は、生存率を大幅に向上させます。国立がん研究センターの調査によると、がんの5年生存率は、ステージ1で90%以上ですが、ステージ4では20%以下に低下します。定期的な健康診断で、がんを早期発見することで、治療期間を短縮し、事業への影響を最小限に抑えることができるのです。

セルフメディケーション税制の適用になる

セルフメディケーション税制とは、自己負担で購入した一定の医薬品に対して、所得税や住民税の控除が受けられる制度です。

健康診断そのものは控除の対象外ですが、健康診断を受けた結果、通院が必要になった場合や医薬品に対しては控除が適用されます。例えば、健康診断で高血圧や糖尿病のリスクが指摘され、通院が必要になった場合はセルフメディケーション税制の対象になります。

また、それらを予防するための医薬品も対象です。

この税制を活用することで、健康管理に積極的に取り組むことができ、結果的に事業の安定性を高めることにつながります。セルフメディケーション税制の適用条件は以下の通りです。

  • 健康診断の費用が12,000円以上であること
  • 健康診断の結果に基づいて、特定の治療を受けたこと
  • 特定の治療とは、医師の処方による薬の購入や、医師の指示による一定の取り組み(禁煙など)を指します

これらの条件を満たせば、健康診断の費用と特定の治療にかかった費用を合わせて、年間上限88,000円まで所得控除を受けることができます。

家族の生活を守るため

個人事業主として、自身の健康はビジネスを支えるだけでなく、家族の生活を守るためにも重要です。特に個人事業主や一人親方の方々は、自身が働けなくなると収入が途絶え、家族の生活に影響を及ぼす可能性があります。

健康診断を受けることで、早期に病気を発見し、適切な治療を受けることが可能になります。これにより、重症化を防ぎ、長期の休業を避けることができます。また、健康診断は、自身の健康状態を把握し、生活習慣の改善や予防策を講じる機会でもあります。

例えば、健康診断で高血圧や糖尿病のリスクが見つかった場合、食生活の見直しや適度な運動を始めることで、病気の進行を遅らせることが可能です。これにより、自身の健康を維持し、家族を守ることができます。

また、健康診断は、自身の健康状態を家族に伝え、家族全員で健康管理をするきっかけにもなります。家族全員で健康に気をつけることで、家族全員の健康を守ることができます。

個人事業主の健康診断は経費にならない

個人事業主が健康診断を受けた際に支払った費用は、原則として経費として計上することはできません。これは、法人と違って健康診断が義務付けられていない個人事業主の場合、自身のための健康診断とみなされるためです。

家族の健康診断(青色事業専従者)も経費に計上できない

青色事業専従者とは、青色申告者の事業で働く家族従業員のことを指します。青色事業専従者である家族が受けた健康診断費用については、経費に計上できません。これは、個人事業主や一人社長自身が健康診断を受けた場合の費用と同様に、経費に計上することができないからです。

同じ従業員でも、青色事業専従者とそれ以外の従業員で取り扱いが異なる点に注意が必要です。

個人事業主の健康診断は医療費控除の対象外

健康診断費用は、原則として医療費控除の対象外です。これは、健康診断は病気の治療に伴う費用ではないため、医療費控除の対象とはならないからです。

そもそも医療費控除とは

医療費控除とは、一定の医療費を支払った個人が、その金額を所得から差し引くことができる制度です。病気やケガで大きな医療費が発生した場合に、税負担を軽減するために設けられています。

医療費控除を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。

具体的には、1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費が10万円を超える場合、または所得が200万円以下で医療費が5万円を超える場合に適用されます。

この制度は、すべての医療費が控除の対象となるわけではありません。例えば、美容整形手術や健康診断など、病気やケガの治療以外の目的で行われた医療行為にかかる費用は、原則として控除の対象外となります。

また、医療費控除を受けるためには、医療費の支払いを証明する書類が必要です。レシートや領収書、医療機関から発行される診療明細書などがそれにあたります。これらの書類を保管しておき、確定申告の際に提出することで、医療費控除を受けることができます。

個人事業主の健康診断が医療費控除の対象になる場合

上記でも触れましたが、通常、健康診断費用は医療費控除の対象外となります。

しかし、健康診断で重大な病気が発見され、その病気の治療を行った場合には、その健康診断費用も治療費用とみなされ、医療費控除の対象となります。

具体的には、人間ドックでがんが発見され、その治療を行った場合、その人間ドックの費用は医療費控除の対象となります。この場合、人間ドックの費用は、がんの治療に先立つ診察費用とみなされるためです。

医療費控除の対象となるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 健康診断の結果、重大な疾病が発見されること。
  • その疾病の治療を行うこと。
  • 健康診断が治療に先立って行われる診察と同様であること。

以上の条件を満たす場合に限り、健康診断費用は医療費控除の対象となります。この点を理解しておくと、適切な税務処理が可能になります。

個人事業主が確定申告で医療費控除を受ける方法

医療費控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。申告方法は以下のような流れです。

①医療費の領収書を集める

医療費控除を受けるためには、支払った医療費の証明が必要です。そのため、医療機関から受け取った領収書は大切に保管しておきましょう。領収書には、受診日、医療機関名、支払金額などが記載されている必要があります。

②医療費の合計額を計算する

1年間(1月1日から12月31日まで)の医療費の合計額を計算します。病院やクリニックでの診察費、薬代、治療費、医療器具の購入費などが対象となります。ただし、保険金などで補填された金額は差し引く必要があります。

医療費控除額は、支払った医療費が所得の5%を超える部分です。ただし、その額が10万円を超える場合は、10万円を超える部分が控除額となります。

③確定申告を行う

毎年2月16日から3月15日までに、最寄りの税務署またはe-Tax(国税庁の電子申告・納税システム)で確定申告を行います。このとき、医療費控除を受けるための申告を忘れないようにしましょう。医療費の領収書は提出不要ですが、自宅で5年間保管する必要があります。

個人事業主の健康診断に用いる勘定科目

個人事業主が自身の健康診断の費用を支払った場合、用いる勘定科目は「事業主貸」です。事業主貸は、事業以外のものを事業用の資金で支払った場合に用いる勘定科目です。健康診断費用を事業用の口座から支払った場合は、事業主貸勘定で計上します。

例)

個人事業主本人の健康診断費用(10,000円)を事業用口座から支払った場合の仕訳例は次の通りです。

  • 借方:事業主貸 10,000円
  • 貸方:普通預金 10,000円

一方、個人事業主が従業員の健康診断の費用を支払った場合、用いる勘定科目は「福利厚生費」です。

福利厚生費は、従業員のために任意で支出した費用に用いる勘定科目です。従業員の健康診断費用を支払った場合は、福利厚生費で計上します。福利厚生費は健康診断費用のほか、慰安旅行費や食事補助、慶弔見舞金などの計上で用います。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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