• 作成日 : 2024年8月22日

社会復帰促進等事業とは?労災保険と連携した3つの支援内容を解説

社会復帰促進等事業は、労災保険の一部の事業であり、被災労働者の社会復帰支援、遺族援護、労働者の安全衛生確保が行われています。労災保険の給付と併せて、被災労働者とその遺族に対して、社会復帰促進事業、被災労働者等援護事業、安全衛生確保等事業の3つの支援を提供しています。

本記事では、社会復帰促進等事業の目的や対象者、具体的な支援内容について詳しく解説します。

社会復帰促進等事業とは?

社会復帰促進等事業とは、労災保険の一部として行われ、労働者が怪我や病気などの労働災害に遭った際に、その労働者が再び社会生活に戻ることを支援するための事業です。

この事業の目的は、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者やその遺族の援護、そして労働者の安全と健康の確保を図ることです。

例えば、労働災害によって脊髄を損傷し、下半身不随となった労働者がいたとします。労災保険からの給付金だけでは、その方の社会復帰や日常生活の維持は困難です。

そこで、社会復帰促進等事業による追加的な支援として、リハビリテーションや職業訓練、福祉機器の提供などが行われます。このような支援によって、被災労働者の方々が再び社会で活躍できるようになることが期待されています。

社会復帰促進等事業の対象者

■労働災害により怪我や病気をした労働者

業務上の事由または通勤により、怪我や病気をした労働者が対象となります。例えば、工事現場で足場から落下して骨折した方や、長年の過重労働でうつ病を発症した方などが該当します。

■労働災害により亡くなった労働者の遺族

労働災害によって亡くなった労働者の遺族も、社会復帰促進等事業の対象者となります。遺族とは、労働者の死亡当時その者の収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹を指します。

社会復帰促進等事業の実施機関

社会復帰促進等事業を行うのは主に「政府」です。しかし、以下の機関も一部の事業を行っています。

  • 独立行政法人労働者健康安全機構:療養施設の設置及び運営、健康診断施設の設置及び運営、未払賃金の立替払事業などを行っています。
  • 独立行政法人福祉医療機構:労災年金受給権者に対する年金の受給権を担保とする小口資金の貸付けを行っています。

社会復帰促進等事業の3つの支援

社会復帰促進等事業は、「社会復帰に向けての支援」「被災労働者および遺族の支援」「労働者の安全衛生の確保」の3つの支援を提供しています。

社会復帰に向けての支援:社会復帰促進事業

社会復帰促進事業は、被災労働者が回復し社会復帰できるようにするための事業です。例えば、治療やリハビリ、後遺症への支援があります。主に以下のようなことが実施されています。

外科後処置の費用の支給

労災保険給付は、傷病が治癒した後は支給されなくなります。ただし、傷病が治癒した後も、再手術や追加の治療により、失った労働能力の回復や外見上の傷跡の軽減が見込まれる場合には、必要な経費を支給する制度が設けられています。

義肢等の費用の支給

四肢喪失や機能障害等が残った労働者に対して、その障害の程度に応じて義手や義足の補装具の購入等に要した費用を支給する制度です。

支給される種目は、義手や義足、車いす、眼鏡、補聴器など24種目があり、各種目ごとに支給基準が定められています。

アフターケアに要した費用の支給

傷病が治癒した後でも、再発や付随する病気の発症を防ぐために、必要に応じて、診察、保健指導、保健のための処置、検査の4つの措置が受けられるようにする制度です。

アフターケアの対象となるケガや病気は、せき髄損傷や大腿骨頚部骨折及び股関節脱臼、など20種類あり、一定の障害等級などを対象者の要件としています。

アフターケアを受けるためには、申請者の所属事業場を管轄する都道府県労働局長に申請する必要があります。申請が認められると、都道府県労働局からアフターケア手帳が交付され、労災保険指定医療機関で、手帳保有者の費用負担がなく、診察、保健指導、保健のための処置、検査を受けることができます。

参照:アフターケア制度のご案内|厚生労働省

被災労働者および遺族への支援:被災労働者等援護事業

被災労働者等援護事業では、被災労働者やその遺族に対する経済的・社会的な援護を行います。主に以下のようなことが実施されています。

特別支給金の支給

「特別支給金」は、本来もらえる保険給付に上乗せして支給されます。労災保険では、9種類の特別支給金があり、労災による病気やケガなどが一定の条件に該当する場合には、それぞれの状況に応じて、法令で決められた金額の特別支給金を受給することができます。

  1. 休業特別支給金: 休業補償給付又は休業給付を受ける者に対し、休業4日目から休業1日につき、給付基礎日額の20%相当額が支給されます。
  2. 障害特別支給金: 業務や通勤による傷病の治癒後、障害等級に該当する障害が残り、障害補償給付又は障害給付を受ける者に対して支給されます。
  3. 障害特別年金: 障害補償年金又は障害年金を受ける者に対し、障害の程度に応じて支給されます。
  4. 障害特別一時金: 障害等級が第8級から第14級の人に対して、障害の程度に応じて一時金が支給されます。
  5. 遺族特別支給金: 労働者が業務災害または通勤災害により死亡した時に、以下の受給者に一律300万円が支払われるものです。労働者の死亡当時の最先順位の遺族補償年金もしくは遺族年金の受給資格者、遺族補償一時金もしくは遺族一時金の受給権者が対象となります。
  6. 遺族特別年金: 遺族補償年金または遺族年金の受給者に対して、遺族の数に応じて支給されます。
  7. 遺族特別一時金: 遺族補償一時金又は遺族一時金の受給権者に対して支給されます。
  8. 傷病特別支給金: 被災労働者が療養を開始してから1年6カ月を経過してその傷病が治っておらず、傷病等級1級から3級に該当する場合に支給されます。
  9. 傷病特別年金:被災労働者が療養を開始してから1年6カ月を経過してその傷病が治っておらず、傷病等級1級から3級に該当する場合に支給されます。

上記のうち、3、4、6、7、9の支給については、被保険者の特別給与(賞与)を基礎として支払われる給付となり、特別加入の被保険者は対象となりません。

保育費・就学費の援助:労災就学等援護費

「労災就学等援護費」は、労働災害による遺族年金受給権者や、重度の障害を受けたり長期療養が必要になった被災労働者本人で、その子ども等の学費などの支払いが困難と認められる場合に、就学等の状況に応じて支給される制度です。

具体的には、以下のような援護が行われます。

  • 労災就学援護費:小学校、中学校、高等学校、大学、専門学校などに通う人を対象に支給されます。
  • 労災就労保育援護費:保育所、幼稚園、託児施設などに預けている人を対象に支給されます。

労働者の安全衛生の確保:安全衛生確保等事業

安全衛生確保等事業では、労働者の健康と安全を確保し、労働環境の改善を図ることを目的とした事業です。この事業は、労働災害を防止し、労働者が安心して働ける環境を整えるために、さまざまな取り組みを行っています。

具体的には、以下のような活動が含まれます。

労働災害防止対策

建設業などにおける労働災害防止対策として、足場からの墜落防止措置に係る診断と改善計画の指導・支援が行われています。

一人親方などを対象とした研修会や現場での技術指導も実施され、労働災害の防止が図られています。

労働条件の適正化

働き方改革の実現に向けて、労働時間の上限規制の定着による長時間労働の抑制が図られています。労働基準監督署による時間外労働の指導と集団指導が行われ、労働者が適正な労働条件で働ける環境の整備が進められています。

このような取り組みにより、過重労働の解消と労働者の健康保護が推進されています。

ハラスメント対策

職場のハラスメントに対する総合的な対応として、ハラスメントに関するポータルサイトの改修・運営が行われています。さらに、雇用均等指導員による相談対応や、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用する事業主への啓発指導が実施されています。

これにより、職場でのハラスメントの防止と対応が強化され、健全な職場環境の実現が目指されています。

受動喫煙の防止対策

職場での受動喫煙防止対策として、電話相談や実地指導が行われています。また、喫煙室を設置する事業場に対しては、設置費用の一部が助成されています。

これにより、受動喫煙のリスクが軽減され、職場の健康環境が改善されています。

化学物質の管理

化学物質による労働者の健康障害を防ぐための総合対策として、新規化学物質の審査や有害性調査が行われています。さらに、事業場における適切な化学物質管理の支援や、職場での化学物質管理に関する講習会の実施も含まれています。

これにより、化学物質による健康リスクの低減と安全な作業環境の実現が目指されています。

メンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策は、労働者の精神的健康を保護し、働きやすい環境を整える貯めに取り組みです。事業場におけるストレスチェック制度の導入や職場環境の改善に関する指導を行います。

テレワーク普及促進

テレワークの普及促進のために、適切な労務管理とICT支援が行われています。テレワークガイドラインの周知啓発や、テレワーク導入に関する相談対応、訪問コンサルティングが実施されています。これにより、労働者が柔軟に働ける環境が整備され、生産性の向上と労働環境の改善が図られています。

外国人技能実習機構に対する交付金

外国人技能実習生の安全と健康を確保するための取り組みとして、実習実施者に対して安全衛生セミナーを開催し、労働安全衛生に関する知識と技能の向上を図ります。

参照:社会復帰促進等事業|厚生労働省


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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