- 更新日 : 2024年9月1日
労災申請に期限はある?各補償の期限や請求手続き、あとから申請する方法を解説
労災申請の期限は給付の種類によって異なります。療養補償給付は請求期限がなく、あとからでも申請可能です。一方、休業補償給付は2年以内、障害補償給付は5年以内など、期限が定められている給付もあります。
この記事では、労災申請の期限や請求手続きの流れ、あとからの申請や健康保険使用後の申請の可否、注意点などについて詳しく解説します。
労災申請に期限はある?
労災申請には、補償給付ごとに請求期限が定められています。労災事故が発生してから請求期限内に申請を行う必要があります。ただし、一部の補償給付については、請求期限後でも特別な事情がある場合には、あとから申請することが可能です。以下に、主な労災補償給付の請求期限についてご説明します。
労災補償種別 | 申請期限(時効) |
---|---|
療養(補償)給付 | 労災指定病院以外で受診した場合、療養費用の支出日の翌日から2年 |
休業(補償)給付 | 休業日の翌日から2年 |
傷病(補償)年金 | 労働基準監督署長の職権によって支給が決まるため、労働者に請求権がない |
障害(補償)給付 障害(補償)一時金 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月1日から2年 |
遺族(補償)年金 遺族(補償)一時金 | 被災労働者死亡日の翌日から5年 |
葬祭料等(葬祭給付) | 被災労働者死亡日の翌日から2年 |
二次健康診断給付金 | 一次健康診断の受診日から3ヶ月以内 |
療養(補償)給付の請求期限
労災保険の療養給付は、労働者が労働災害により治療を受けるための費用を補償するものです。治療が完了するまで、必要な期間にわたって給付が継続されます。
- 労災指定病院の場合:労災保険指定医療機関を受診した場合、窓口での自己負担がないため、請求手続きはありません。
- 労災指定外の病院の場合:指定医療機関以外で治療を受けた場合は、療養費の支払日の翌日から2年以内に請求する必要があります。
例えば、労災事故により労災指定外の病院で治療を受け、2024年4月2日に治療費を支払った場合、その労働者は2026年4月3日までに申請を行うことができます。
休業(補償)給付の請求期限
労災保険の休業給付とは、労働災害により労働者が一時的に働けなくなった場合に支給される給付金のことを指します。これは、労働者が労働災害により働けなくなった期間の賃金を補償するものです。
具体的には、休業4日目から給付基礎日額の60%相当が支給されます。あわせて特別支給金として給付基礎日額の20%の給付も受けることができます。
労災保険の休業給付は、認定条件を満たす限り補償を受けられます。
ただし、休業補償の受給開始から1年6ヶ月を経過しても病気や怪我が治癒しない場合、休業補償給付は打ち切られ、傷病(補償)年金の支給が決定されることがあります。また、症状が安定しており、「医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった」場合も、「治癒した」とみなされ、休業補償給付は打ち切られます。
休業給付の請求期限は、休業日(賃金を受けない日)の翌日から2年間となっています。
傷病(補償)年金の請求期限
労働者が労働災害により、療養を始めてから1年6カ月を経過した日または同日後において以下のいずれにも該当している場合、傷病年金が支給されます。
- けがや病気が治っていない
- けがや病気による障害の程度が、疾病等級第1級~3級
傷病年金の支給手続きは、所轄労働基準監督署長が職権により支給を決定するので、労働者が請求する必要はありません。
傷病等級の変更も所轄労働基準監督署長の職権で行われます。他の傷病等級に該当する場合は変更され、傷病等級に該当しなくなった場合は、労働者の請求により休業補償給付が支給されます。
障害(補償)給付・障害(補償)一時金の請求期限
障害年金は、労働災害により傷病が治癒した後でも、身体に一定の障害が残った場合に支給される保険給付です。障害等級表の障害等級1級から7級に該当する障害が残った場合に受け取れます。
障害一時金とは、業務上または通勤途上の傷病が治ったとき(症状が固定した後)に一定以上の障害が残った場合に支給される一時金です。障害等級が第8級から第14級に該当します。
障害年金や障害一時金の請求期限は、けがや病気の症状が固定して治癒したと判断された日の翌日から5年です。
障害等級によって支給される年金の額は以下の通りです。
【障害(補償)給付】
給付基礎日額をもとに、下記日数分支給。
- 第1級:313日分
- 第2級:277日分
- 第3級:245日分
- 第4級:213日分
- 第5級:184日分
- 第6級:156日分
- 第7級:131日分
【障害(補償)一時金(一時金として1回のみ支給)】
給付基礎日額をもとに、下記日数分支給。
- 第8級:503日分
- 第9級:391日分
- 第10級:302日分
- 第11級:223日分
- 第12級:156日分
- 第13級:101日分
- 第14級:56日分
介護(補償)給付の請求期限
介護給付は、労働災害により労働者が介護を要する状態にあり、実際に介護を受けているときに支給されます。
次の全ての要件を満たす場合に給付されます。
- 障害補償年金または傷病補償年金の支給対象となる
- その障害の程度が一定水準以上で、常時または随時の介護が必要な状態にある
- 実際に常時または随時の介護を受けている
- 病院または診療所に入院していないこと
- 介護老人保健施設、介護医療院、障害者支援施設等に入所していないこと
介護の内容は、労働者の障害の状態や必要なケアによりますが、日常生活の支援、身体機能の維持や向上を目指したリハビリテーション、医療的なケアなどが含まれます。
介護給付の請求期限は、介護を受けた月の翌月1日から2年間です。介護補償は月単位で支給されるため、実際の介護日ではなく月単位で請求する必要があることにご注意ください。
遺族(補償)年金・遺族(補償)一時金の請求期限
遺族年金は、労働者が業務上の災害で亡くなった場合に、その労働者の収入によって生計を維持していた遺族に対して支給される保険給付です。
遺族(補償)年金の額は、受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者(55歳以上の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹は60歳になるまでは支給停止)の人数によります。
- 遺族1人:給付基礎日額の153日分(55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合は175日分)
- 遺族2人:給付基礎日額の201日分
- 遺族3人:給付基礎日額の223日分
- 遺族4人:給付基礎日額の245日分
遺族(補償)一時金は、遺族補償年金の受給資格者がいない場合に、その他の遺族に対して支給される保険給付です。
遺族年金・遺族一時金の請求期限は、労働者が亡くなった日の翌日から5年です。
葬祭料等(葬祭給付)の請求期限
葬祭料等(葬祭給付)は、労働者が業務上または通勤途上の傷病により死亡した場合、その労働者の葬祭を行う遺族等に、葬祭費用の補助として支給されるものです。
「葬儀を行う遺族」とは、葬儀を執り行うのにふさわしい遺族を言います。遺族がいない場合には、社葬として葬儀を行った会社に支給されます。
葬祭料(葬祭給付)の額は、給付基礎日額の30日分に315,000円を加えた額ですが、この額が給付基礎日額の60日分より少額の場合は60日分が支給額となります。
葬祭料は、労働者の死亡した日の翌日から2年が請求期限です。
二次健康診断給付金の請求期限
二次健康診断等給付は、職場の定期健康診断等で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断及び脳・心臓疾患の発症の予防を図るための特定保健指導を1年度内に1回、無料で受診することができる制度です。
具体的には、次の検査を行います
- 空腹時血中脂質検査
- 空腹時血糖値検査
- ヘモグロビンA1c検査
- 負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
- 頸部超音波検査(頸部エコー検査)
- 微量アルブミン尿検査
二次健康診断給付の請求期限は、 一次健康診断の受診日から3ヶ月以内です。
労災保険の請求手続きの流れ
労働災害が発生した場合、適切な手続きを行うことで労災保険から必要な給付を受けることができます。
1. 労災の申請をする前の準備
労災保険給付請求書を入手するために、最寄りの労働基準監督署や労働局のウェブサイトからダウンロードするか、直接窓口で入手します。次に、医師の診断書、療養の費用明細書、休業した期間の給与明細など、労災申請に必要な書類を揃えます。事業主の証明を受けるため、労災保険給付請求書の事業主証明欄に必要事項を記入してもらいます。一人親方の場合は、事業主の証明欄は空欄のままで構いません。
2. 労災の申請方法
準備した申請書類一式を、業務上の事故や病気が発生した事業所を管轄する労働基準監督署に提出します。窓口に直接持参するか、郵送で送付します。申請書類が受理されると、労働基準監督署の担当者による調査が行われます。事故の状況、業務との因果関係、治療の内容などについて、詳しく確認が行われる場合があります。調査結果に基づき、労災保険給付の可否が決定されます。
3. 労災保険給付の支給
労災保険給付の支給が決定されると、指定した口座に給付金が振り込まれます。療養補償給付の場合、労災保険指定医療機関での治療費は労災保険から医療機関に直接支払われるため、一旦立て替える必要はありません。ただし、一部の治療で自己負担が発生する場合があります。休業補償給付は、休業した日数に応じて平均賃金の60%及び、特別支給金20%相当額が支給されます。
4. 不服申立て
労災保険給付の決定内容に不服がある場合、審査請求を行う権利があります。審査請求は、決定通知を受けた日の翌日から60日以内に、労働者災害補償保険審査官に対して行います。審査請求書に必要事項を記入し、不服の理由を明確に述べる必要があります。審査官による調査・審理を経て、審査請求に対する決定がなされます。
5. 労災保険給付の変更・追加請求
療養補償給付を受けている最中に、病状が悪化したり、新たな後遺障害が発生したりした場合、労災保険給付の変更や追加の請求を行うことができます。必要書類を揃えて、管轄の労働基準監督署に申請します。変更・追加請求の内容を証明する医師の診断書や意見書が重要になります。また、休業補償給付の延長や、障害補償給付への切り替えなども、状況に応じて請求が可能です。
労災をあとから申請できる?
労災の申請は、本来は労災事故が発生してからすぐに行うのが原則です。しかし、さまざまな事情により、事故発生直後に申請ができなかったケースもあるでしょう。では、そのような場合、あとから遡って労災申請を行うことは可能なのでしょうか。
結論から言えば、労災保険をあとから申請することは可能です。もし、会社が労災として申請をしていなかった場合も改めて申請をすることもできます。しかし、前述で申し上げたように、労災保険の申請には時効があります。
この期間を過ぎてしまうと、労災保険の申請はできなくなる可能性がありますので、労働災害が発生した場合は、早めに申請を行うことが大切です。
労働災害の申請を行うためには、労働者が労働災害に遭った事実を証明する必要があります。これには、医師の診断書や事故の詳細を記載した事故報告書などが必要となります。
会社を退職したあとで労災の申請はできる?
会社を退職した後でも、労災保険の申請を行うことは可能です。
これは、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と法律で明記されているからです(労働者災害補償保険法12条の5第1項)。
健康保険を使用したあとで労災の申請はできる?
健康保険を使用して治療を受けた後でも、労災申請を行うことは可能です。労災事故の発生から労災申請までに時間がかかり、その間に健康保険を使用して治療を受けたケースでも、後から労災申請を行い、療養補償給付を受けることができます。
例えば、会社で足を骨折したが、すぐに労災だと気づかず、健康保険で病院にかかったケースなどがこれに当てはまります。
ただし、健康保険で受診した場合、一旦自己負担分を支払う必要があります。労災申請が認められれば、支払った自己負担分は後日還付されますが、申請が却下された場合は自己負担のままとなるので注意が必要です。還付を受けるまでには、申請から決定まで通常1~3ヶ月程度かかります。
健康保険から労災保険への切り替え手続き
健康保険を使用した後に労災申請を行う場合、健康保険から労災保険への切り替え手続きが必要となります。労災申請が認められると、原則として療養開始日にさかのぼって労災保険が適用されるため、それまでに健康保険を使用していた分の医療費は、労災保険から支払われることになります。
具体的な切り替え手続きの流れは以下の通りです。
- 所轄の労働基準監督署に労災申請書を提出する
- 申請に必要な書類(診断書、事故証明書等)を揃えて、労働基準監督署に提出する
- 労災が認定されたら、医療機関に労災保険への切り替えを申し出る
- 医療機関が健康保険分の医療費を労災保険に請求する
- 労災保険から健康保険に医療費が支払われ、健康保険の自己負担分が還付される
なお、労災申請は、療養開始日から5年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、時効により労災保険の給付を受けられなくなるので注意しましょう。
労災申請が認定されなかった場合
労災申請を行ったものの、労災が認定されなかった場合は、健康保険を使用した分の医療費は自己負担となります。ただし、労災申請が却下された場合でも、審査請求を行うことで、再度審査を受けることができます。審査請求は、却下の通知が届いてから60日以内に行う必要があります。
審査請求の結果、労災が認定された場合は、健康保険を使用した分の医療費も労災保険から支払われます。ただし、審査請求の手続きには時間がかかるため、結果が出るまでは自己負担となります。
労災の申請期限に関する注意点
申請期限を確認し、早めの申請を心がける
労災申請には、症状や事故発生から5年以内という期限があります。ただし、療養補償給付や休業補償給付は2年以内に申請する必要があるため、注意が必要です。また、遅れて申請すると、遡っての給付が受けられない場合もあるので、できるだけ早めに申請することをおすすめします。
必要書類を漏れなく準備する
労災申請には、様式第5号(療養補償給付たる療養の費用請求書)や様式第8号(休業補償給付支給請求書)など、様々な書類が必要です。申請に必要な書類は、労災の種類や症状によって異なるため、事前に労働基準監督署に確認しておくことが大切です。また、書類の記入漏れや不備がある場合、申請が受理されないことがあるので、十分に確認してから提出しましょう。
必要書類の例
医師の正確な診断書を取得する
労災申請には、指定医療機関の医師が作成した診断書が必要不可欠です。診断書には、症状や治療経過、後遺障害の有無などが詳細に記載されている必要があります。曖昧な表現や誤った記載があると、労災認定が下りない可能性があるため、医師とよく相談し、正確な診断書を取得することが重要です。
また、初診時から労災申請を見据えて、医師に労災であることを伝えることが大切です。また、複数の医療機関を受診した場合は、すべての診断書を取得する必要があります。症状が変化した場合は、その都度、新しい診断書を取得しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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