- 作成日 : 2024年8月22日
熱中症は労災として認められる?労災の基準や申請手続き、事例、安全配慮義務を解説
熱中症は、特に暑い季節に多く発生し、労働災害として深刻な問題となっています。労働者が職場で熱中症を発症した場合、労災保険の対象となる可能性があります。
この記事では、熱中症が労災として認められる基準や手続き、事例、安全配慮義務について詳しく解説します。労災保険制度の理解を深め、適切な対策を講じることで、労働者の健康と安全を守る方法を学びましょう。
目次
熱中症は労災として認められる?
熱中症は、特に暑い季節に多く発生し、労働災害として深刻な問題となっています。
労働者が職場で熱中症を発症した場合、労災保険の対象となる可能性があります。労働者災害補償保険法では、業務上の事由により労働者が負傷し、または疾病にかかったときには、労災保険給付の対象となると定められているからです。
ただし、すべての熱中症が労災として認められるわけではありません。労災認定には一定の基準があります。具体的な認定基準や手続きについては、後述します。
熱中症は、高温環境下での労働により体温調節機能が追いつかず、体温が上昇することで起こる症状のことを指します。一般的には夏季の屋外作業や、高温の工場内での作業などで見られます。しかし、冬季でも暖房が過剰に効いている室内での作業でも発生する可能性があります。
労働中に熱中症が発生した場合、労災として認められます。熱中症により労働者が一定の障害を負ったり死亡したりする場合があります。熱中症が労働中に発症し、その結果として労働者が死亡したり、一定の障害を負ったりした場合です。
熱中症とは?
熱中症とは、高温環境下での労働や運動により、体が熱を上手く放出できなくなり、体温調節機能が追いつかず、体温が上昇して起こる危険な症状です。熱中症の症状は軽度から重度までさまざまで、軽い熱中症ではめまいや吐き気、重度の場合には意識障害やけいれんなどが起こります。
特に屋外作業を行う建設業や製造業、運送業など、高温多湿の職場環境にさらされる労働者に多く発生する傾向にあります。熱中症は主に以下のような原因で発生します。
- 高温多湿の環境で長時間労働する
- 適切な水分補給や休憩が取れない
- 体調不良(発熱、下痢など)のまま作業を続ける
- 高温・多湿の環境で運動する
熱中症は、予防が可能な労働災害であり、適切な対策を講じることで発生を防ぐことができます。そのため、労働者自身だけでなく、職場の管理者や経営者も、熱中症予防についての知識を持つことが求められます。
また、熱中症の症状が現れた場合、すぐに救急医療の専門家に連絡し、涼しい場所に移動して体を冷やすことが重要です。
熱中症は建設業・製造業・運送業が上位に
令和4年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」では、2014年から2023年までの熱中症による死傷者数の推移が報告されています。
死傷者数の推移をみると、2018年の死傷者数は1,178人と大幅に増加し、2019年以降は多少の増減はあるものの、全体的に見て増加傾向にあります。特に2023年には1,106人と、前年を上回る数値となっています。
また、月別の死傷者数を確認すると、特に7月と8月に多くの死傷者が発生しています。
さらに、時間別の発生状況を見ると15時台が最も多くなっており、次いで11時台や14時台と、1日の中で気温が高くなる時間に多く発生していることが分かります。
業種別の傾向としては、建設業、製造業がそれぞれ21%、20%と上位を占め、続いて、運送業、警備業と続いています。
年齢別にみると、 熱中症による死傷者数の約50%が50歳以上の年齢層で発生しています。65歳以上の死亡者数も2022年から2023年にかけて増加しており、高齢労働者の安全対策が一層求められます。
これらのデータから、50歳以上や高齢者への適切な休憩の確保や効果的な熱中症の予防対策が必要です。また、若年層に対しても、適切な教育と無理をしない作業環境の整備が求められます。
参考:令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省
熱中症が労災と認められるケース
労災保険制度上、熱中症が労災として認められるには、業務との関連性と因果関係が必要で、医学的にも熱中症であると確認される必要があります。具体的には、業務起因性、業務遂行性という2つの条件を満たす必要があり、これらの要件を総合的に判断して、労災認定がなされることになります。
一般的認定要件
- 労働中に熱中症を発症した
- 熱中症の発症が労働によるものであることが明らかである
- 業務以外の原因で発症したものではない
医学的診断要件
- 作業環境の温度や湿度などの状況を把握すること
- 症状の観察(けいれん、意識障害など)と体温の測定を行うこと
- 他の疾患(頭蓋内出血、脳貧血、てんかんなど)との鑑別診断を行うこと
また、飲み会などの社交行事で熱中症を発症した場合に労災と認められるかどうかは、状況によります。例えば、飲み会が業務の一部と見なされ、その中で熱中症を発症した場合には労災と認められる可能性があります。
具体的な業務上の疾病の範囲は労働基準法施行規則別表第1の2に規定されていて、熱中症はこの内の「暑熱な場所における業務による熱中症」に該当します。
しかし、具体的な判断は各事例の詳細な状況によりますので、必ず専門家に相談することをおすすめします。
熱中症が労災と認められないケース
すべての熱中症が労災と認められるわけではありません。以下に、熱中症が労災と認められないケースについて説明します。
- 労働と熱中症の発症との間に明確な因果関係が認められない
- 熱中症の発症が労働以外の要因の場合
- 疾病の悪化によるものである場合
- 休業中に疾病した場合
熱中症による労災事故事例
熱中症における事故事例を解説します。
建設業における熱中症の事例
建設業は、屋外での作業が多く、夏季の高温時には熱中症のリスクが高まります。以下の事例では、高温下での長時間の作業、熱中症予防対策の不足、迅速な対応の遅れなどが災害の主な原因として考えられています。
木造家屋建築工事現場での労災事例によると、被災者は木造家屋建築工事現場において、朝から型枠組み立て作業に従事していました。1時間に1回の短い休憩を取りながら作業を続けていましたが、夕方の休憩時に体調が急変しました。頭に水をかけるなどの応急処置を行いましたが、ろれつが回らなくなり痙攣を起こしたため、救急車を要請しましたが、搬送先の病院で「熱射病による多臓器不全」により死亡しました。
この災害の主な原因としては、高温多湿の環境下での長時間作業に従事していたことや、休憩場所が遮光されていなかったこと、加えて、ろれつが回らなくなった際の救急要請の遅れや、定期的な作業場所の巡視の不足など、緊急時の対応と現場管理も課題となっていました。
土木工事業における熱中症の事例
ある50歳代の土木工事労働者が、気温30度の環境下で、8時から正午過ぎまで建設現場での水路敷設作業の補助業務に従事していました。その後、16時まで待機し、自宅に帰ったのですが、作業中に体調不良を訴えることはありませんでした。
しかし、19時25分頃、同居する同僚の様子がおかしいことに気づき、直ちに救急搬送したところ、残念ながら病院で亡くなってしまったということです。
労働者の健康と安全を守るためには、適切な休憩の確保や、同僚による早期発見など、総合的な熱中症対策が必要だと言えるでしょう。
運搬業における熱中症の事例
ある60代の労働者は、コンクリート製品の運搬業務に従事していました。気温が33度と非常に高い環境の中、7時からフォークリフトを使って製品の運搬作業を行っていたそうです。その後、15時の休憩時間を取った後に作業を再開したところ、同僚がフォークリフトが長時間止まっているのに気付きました。同僚が様子を見に行くと、そこには倒れている被災者の姿がありました。直ちに救急搬送されましたが、残念ながら病院で亡くなってしまったということです。
小売業における熱中症の事例
室内でも、熱中症の危険が確認されています。
ある50代の小売業の労働者は、店舗の奥にある作業場で単独で翌日の仕込み作業を行っていました。気温が30.7度という環境の中での作業でした。
午後3時20分頃、この労働者から取締役に電話があったそうです。取締役が店舗に駆けつけると、労働者が仰向けで倒れている状態で発見されました。直ちに救急搬送されましたが、病院に着いた時にはすでに亡くなっていたということです。
単独での作業では、体調不良が早期に発見されにくく、熱中症のリスクが高まります。この事故例からは、特に一人で作業を行う労働者への配慮が示されています。
参考:職場のあんぜんサイト|厚生労働省、令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します|厚生労働省
熱中症の労災申請から給付までの手続き
熱中症による労災保険の申請をするためには、労災指定病院と会社を通して「療養補償給付」の申請手続きを行う必要があります。
熱中症が発生した場合、労災保険の給付を受けるまでの大まかな流れは以下の通りです。
- 熱中症の発症:労働中に熱中症の症状を発症します。
- 医療機関を受診する:労働者はすぐに労災保険指定病院(労災保険指定外も可)を受診し、熱中症の治療を始めます。受診の際は必ず労災保険を使用する旨を病院へ伝えます。
- 労災保険の申請書類を受診病院に提出する:会社から労災保険の申請書類をもらい、受診した病院に提出します。
- 病院から労働基準監督署に書類が送付される:病院はこの申請書類を労働基準監督署に送付します。
- 労災の審査・認定:労働基準監督署は、提出された請求書と診断書を基に、熱中症が労災と認められるかどうかを判断します。
- 給付の開始:労災が認定されると、労働者は医療費の補償、休業補償、障害補償など、労災保険法に基づく給付を受けることができます。
熱中症の労災で損害賠償はできる?
熱中症が労災と認定された場合、労働者は労災保険法に基づく給付を受けることができます。これには医療費の補償、休業補償、障害補償などが含まれます。しかし、これらの給付は労災保険から支払われるものであり、直接的な損害賠償とは異なります。
一方、事業主には「安全配慮義務」があります。これは、事業主が労働者の安全と健康を確保するために必要な措置を講じる義務のことを指します。具体的には、労働環境の整備や労働者への教育・訓練の提供、労働時間の管理などが含まれます。
もし事業主がこの安全配慮義務を怠り、その結果として労働者が熱中症を発症した場合、事業主は労働者の損害賠償責任に応える必要があります。
ただし、具体的な賠償額や手続きは、各事例の詳細な状況や法律によりますので、必ず専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。
熱中症への国の取り組み:STOP!熱中症 クールワークキャンペーン
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」は、厚生労働省や中央労働災害防止協会を中心とした複数の労働災害防止団体が主催し、令和6年5月1日から9月30日まで実施されます。
このキャンペーンの目的は、夏季における職場での熱中症予防を徹底することです。
具体的な内容としては、暑さ指数(WBGT)の把握とそれに基づく熱中症予防対策の実施、事前の労働衛生教育の実施、糖尿病や高血圧症などの持病を持つ労働者に対する配慮が含まれます。
キャンペーン期間中には、職場ごとに予防対策の徹底を図るための設備や服装の見直し、健康状態の管理、緊急時の対応策の確認が求められます。
参照:令和6年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱 |厚生労働省
会社が行うべき従業員の熱中症対策
従業員の健康と安全を守るため、事業者には様々な熱中症予防対策を講じることが求められます。
作業環境の管理
職場の暑さ指数(WBGT)を把握し、それに基づいて適切な対策を講じることが基本となります。WBGTとは、気温、湿度、輻射熱の3つの要素を総合的に評価した指標で、労働環境の安全を確保するために使用されます。高温多湿の環境では、作業を中断する、休憩時間を増やすなどの措置が求められます。
労働者の健康管理
特に糖尿病や高血圧症など、熱中症のリスクを高める持病を持つ労働者には特別な配慮が必要です。定期的な健康診断を実施し、健康状態を常に把握しておくことが求められます。また、体調不良時には無理をせず、速やかに医療機関を受診するよう促すことが大切です。
適切な休憩場所の確保
冷房の効いた休憩室や日陰など、涼しい場所での休憩を推奨します。これにより、作業中の体温上昇を防ぎ、熱中症のリスクを減少させることができます。
労働者への教育
熱中症の症状や予防方法についての知識を持つことで、労働者自身が危険を回避できるようになります。例えば、「のどが渇いたと感じる前に水分を摂る」、「軽い熱中症の症状を感じたらすぐに休む」などの具体的な指導が有効です。
緊急時の対応策を整える
労働者が熱中症の症状を示した場合、迅速に対応できるように、救急連絡先や応急処置方法を周知徹底しておく必要があります。例えば、頭に水をかける、冷却シートを使用するなどの基本的な応急処置を全員が理解していることが求められます。
これらの対策を徹底することで、会社は労働者の安全を確保し、熱中症による労働災害を未然に防ぐことができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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