- 更新日 : 2024年9月2日
建設キャリアアップシステムとは?一人親方も義務?費用や手続きを解説
建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、建設業界の技能者の就業履歴などを蓄積・登録するシステムです。2019年から開始され、登録は2023年から原則義務化されています。 一人親方が登録することで技能や経験が可視化され、適正な評価や待遇につながるメリットがあります。
登録方法や費用など、一人親方の建設キャリアアップシステム活用に関する情報をわかりやすく解説します。
目次
建設キャリアアップシステムとは?
建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、建設業界の技能者の資格や就労状況、社会保険加入状況を一括管理するものです。
建設業界では、技能者の高齢化や若手の入職者減少が深刻な問題となっています。そこで、建設キャリアアップシステムを導入することで、技能者一人ひとりの就業履歴や資格を見える化し、適正な評価と処遇につなげることが期待されています。また、現場の施工体制の把握や社会保険への加入状況の確認も容易になり、適正な工事の施工と労働環境の改善にも役立ちます。
建設キャリアアップシステムの運用は国土交通省の推進のもと、2019年から開始されました。登録は2023年から原則義務化されています。
システムの運用・管理は、一般財団法人建設業振興基金が行っています。運用開始初年度で約100万人の技能者が登録し、5年で全ての技能者(330万人)の登録を目標としています。
2023年3月末時点では、技能者が約114万人、事業者が約22万人登録しています。技能者の場合は、3人に1人が登録しているシステムです。
建設キャリアアップシステムに登録する際は、マイナンバーカードや保有資格、社会保険加入状況などの情報が必要です。
建設キャリアアップシステムの導入目的
建設キャリアアップシステムを導入した主な目的は、以下の通りです。
- 未来の技能者を育成する
日本全体の課題である就業者人口の減少に対応し、建設業の処遇が他の産業に比べても魅力的であることを示し、若年層の入職を進めることが目指されています。 - 技能者のスキル・キャリアの見える化
能力評価制度を設け、技能者の力量を4段階に分けて評価します。これにより、技能者のスキルやキャリアが明確になり、モチベーションの向上や目標設定が容易になります。 - 建設事業者の事務効率化
建設キャリアアップシステムによって、書類事務の負担が軽減され、現場の入退場管理や施工業務が効率化されます。
建設キャリアアップシステムの最大の目的とされているのは、高齢化による技能者の減少に歯止めをかけ、若い人材の確保と育成につなげることです。
これらの目的を達成することで、技能者にとっては、能力や経験に応じた処遇を受けられる環境が整備され、事業者にとっては、施工に従事する技能者の能力を見える化することで、建設工事の品質向上につながるとされています。
一人親方が建設キャリアアップシステムに登録するメリット
技能レベルがわかり将来のキャリア目標が立てやすい
建設キャリアアップシステムは、技能者の能力と経験に基づく能力評価制度を設けています。レベル1が初級技能者、レベル2は中堅技能者、レベル3は職長レベル、レベル4は登録基幹技能者・高度マネジメントレベルという四段階に分類されます。
この評価制度により、自身の現在のレベルを知ることができます。そして、次に目指すスキルを設定することができるようになります。これにより、自身のキャリアが明確になり、自己成長につながります。
また、一人親方は自身のスキルと経験を証明することができるため、信頼性が向上し、より多くの仕事の機会を得ることができます。
請け負える現場数が増える
建設キャリアアップシステムに登録することで、一人親方は就業記録や経験を証明することができるため、一人親方の信頼性が向上し、より多くの仕事の機会を得ることにつながります。請け負える現場の数も増えていくでしょう。
退職金の受け取り手続きがスムーズ
建設キャリアアップシステムを利用すると、退職金の受け取り手続きが簡素化されます。従来は共済手帳に証紙を貼り付けることで退職金を管理していましたが、システムを利用すると、カードリーダーにタッチするだけで日々の建退共掛金を積み立てることができます。
これにより、証紙を管理する手間がなくなり、確実に退職金を受け取ることができます。
また、令和5年度には建設業退職金共済のキャリアアップシステム完全移行が決定しており、今後はこれらの手続きが簡略化されることとなります。
一人親方が建設キャリアアップシステムに登録する流れ・登録料
一人親方が建設キャリアアップシステムに登録するには、「インターネットによる申請」もしくは「認定登録機関の窓口から紙申請」する2つの方法があります。ただし、顔写真付きの本人確認書類が無い場合は、認定登録機関を通じた申請のみとなります。
以下に登録申請する手順を説明します。
1.事業者登録
まずは事業者登録から始めます。事業者登録を行うと事業者IDが発行されます。
以下に、インターネット申請の手順を説明します。
①必要書類の準備
事業者登録の際には、建設業許可通知書または建設業許可証明書、社会保険などの加入書類、登録申請内容を証明するための添付資料を準備します。これらの書類はJPG形式(またはJPEG形式)のデータで用意してください。
項目 | 事業者確認書類 |
---|---|
建設業許可がある場合 | 建設業許可通知書または建設業許可証明書 |
建設業許可が無い一人親方・個人事業主 | 納税証明書または所得税の確定申告書または個人事業の開始届出書(1年以内のもの) |
その他制度に加入している場合 |
|
②申請用ログインIDの取得
申請用のログインIDを取得します。建設キャリアアップシステムの公式サイトから申し込みを行います。
「事業者」→「申込み」をクリックし、事業者名・登録責任者(氏名・住所・電話番号・メールアドレス)を入力し「利用申込み」をクリックします。
申込みが完了すると、入力したメールアドレス宛にログイン用のID・パスワード・URLが届きます。
③事業者登録の申請内容を入力
建設キャリアアップシステムに事業者登録を行います。
メールで届いたURLからログインし、必要な情報を入力します。具体的には、商号または名称、登録責任者の情報(氏名、住所、所属部署、連絡先)、建設業許可情報、資本金情報、主要取引先、所属団体などを入力します。
- 商号または名称
- 表彰歴
- 支店情報
- 健康保険加入状況、年金保険加入状況
- 建設業許可情報
- 商号または名称
- 代表者名、所在地
- 法人・個人・一人親方の区分
- 法人番号(法人のみ)
- 建設業以外の事業の有無
- 資本金情報(千円単位):一人親方・個人事業の場合は0を記入
- 申込前年度の売上高、完成工事高
- 登録責任者情報
- 建設にかかわる業種情報
- 健康保険情報、年金保険情報、雇用保険情報
- 建設業退職金共済制度情報、中小企業退職金共済制度情報
- 労災保険特別加入情報
- CI-NETの利用有無
- 電子証明書の種類
- 主要取引先
- 表彰履歴
- 所属団体
④内容確認と事業者申し込み
全ての必要な情報の入力が終わると、申請内容の確認画面になります。これまで入力した情報の一覧が表示されるので、入力漏れやミスがないことを確認します。申請内容に間違いがないと判断したら、「申請」ボタンをクリックし、登録申請を完了します。
登録が完了すると以下の通知メールが届きます。
- 登録完了通知メール
- 管理者ID通知メール
- セキュリティコード
2.技能者登録
次に技能者登録を行います。技能者登録を行うと技能者IDと建設キャリアアップカードが発行されます。
以下に、インターネット申請の手順を説明します。
①必要書類の準備
技能者登録の際には、本人確認書、顔写真、社会保険等の加入証明書、その他(資格等)の証明書類などを準備します。これらの書類はJPG形式(またはJPEG形式)のデータで用意してください。
- 本人確認書類:本人の顔写真、氏名、現住所、生年月日を確認できる公的書類が必要です。日本国籍の方の場合と外国籍の方の場合とで異なります。
- 顔写真:登録完了後に発行されるキャリアアップカードの顔写真に使用されます。証明写真機で撮影したものでも、スマホで撮った写真でも大丈夫です。
- 社会保険等の加入証明書類:社会保険等(健康保険、年金保険、雇用保険、建設業退職金共済制度(建退共)、中小企業退職金共済制度(中退共)、労災保険特別加入など)に加入している場合には、それぞれ確認書類が必要となります。
- その他(資格等)の証明書類:保有する技能・資格等を証明する書類も必要です。
- 同意書(代行申請の場合):代行申請を行う場合には、同意書が必要となります。
各証明書類に有効期限がある場合は必ず有効期限内のものを提出し、画像化するにあたって、端が欠けないように注意しましょう。
②申請用ログインIDの取得
申請用のIDとパスワードを取得します。
まずは、建設キャリアアップシステムの公式サイトから「技能者」→「申込み」をクリックし、技能者名・登録責任者(氏名・住所・電話番号・メールアドレス)を入力し「利用申込み」をクリックします。
申込みが完了すると、入力したメールアドレス宛にログイン用のID・パスワード・URLが届きます。
③登録申請内容の入力
建設キャリアアップシステムに技能者登録を行います。
メールで届いたURLからログインし、必要な情報を入力します。
技能者登録の登録内容は主に「本人情報」「所属事業者情報」「社会保険情報」「保有資格情報」「健康診断のほか各種資格情報」です。
また、インターネット申請には、「簡略型と詳細型」があり、どちらかを選択できます(認定登録機関申請は詳細型のみ)。技能者の能力評価制度(レベル判定)を利用する場合は、詳細型を選択します。
簡易型と詳細型の違いは以下の通りです。
項目 | 簡易型 | 詳細型 |
---|---|---|
レベル判定 | 不可 | 可能 |
登録内容 | 本人情報 所属事業者 職種 経験 社会保険(健康保険・年金保険・雇用保険) 建退共・中退共 | 簡易型に加え下記項目を登録 労災保険特別加入 健康診断 学歴 登録基幹技能者資格 保有資格等 研修等受講履歴 表彰履歴 |
料金(税込) | 2,500円 | 4,900円 |
④申請内容の確認・申し込み
入力内容や添付書類に間違いがないか確認します。間違いがある場合は、修正を行います。
3.建設キャリアアップシステム審査
事業者登録と技能者登録の申込が完了したら、建設キャリアアップシステムの審査が行われます。審査は、国土交通大臣が認定した能力評価基準に基づき、分野ごとの能力評価実施団体が行います。審査期間は約3~4週間です。
審査の基準は以下の通りです。
- 建設キャリアアップシステムの利用状況
- 技能者の能力と経験に基づく能力評価
- 技能者のレベル向上の状況(基準日以前過去3年間でレベルが1以上向上した技能者が評価の対象になります)
審査の結果は、公共工事の入札・契約に参加しようとする建設業者の経営に関する客観的事項について審査を行うもので、その結果は建設業者の評価に大きく影響します。
4.登録料の支払い
建設キャリアアップシステムの登録料は、事業者登録や技能者登録が完了した後に請求されます。
審査が完了したら、登録料を支払います。支払い方法は、銀行振込、コンビニ払い、カード決済が可能です
事業登録料:1人親方は0円
事業者がシステムを利用する際に必要な登録料です。事業者登録料は資本金により決まりますが、一人親方は事業者登録料はかかりません。個人事業主の場合は6,000円(税込)です。事業者登録料は、5年ごとに更新となります。
技能者登録料:建設キャリアアップカードの発行に必要
建設キャリアアップシステムの技能者登録料は、建設キャリアアップカードの発行に必要となる料金です。
申請方法によって、料金が異なります。
- インターネット申請:簡略型2,500円/詳細型4,900円
- 郵送・窓口申請:3,500円
カード有効期間は発行日から発行9年経過後の、最初の誕生日までとなります。
なお、申請時60歳以上の方の有効期限は同14年目の誕生日まで、本人確認書類未提出者は同2年目の誕生日までが有効期限です。
なお、カードの紛失・破損・券面書き換えが必要な場合は、実費(1,000円)にて再発行となります。
5.事業者IDと技能者IDの発行
事業者IDと技能者IDは、それぞれ事業者登録と技能者登録が完了した後に発行されます。
事業者IDは、事業者がシステムを利用するための識別子で、事業者登録が完了すると発行されます。
技能者IDは、技能者がシステムを利用するための識別子で、技能者登録が完了すると発行されます。
事業者IDと技能者IDの発行が完了したら、次に関連付けの手続きを行います。関連付けとは、事業者と技能者を結びつけ、就業履歴などを記録するための手続きです。関連付けは、事業者IDからも技能者IDからも可能です。
関連付けを行うことで、技能者の就業履歴が正しく記録され、キャリアアップに繋がります。
一人親方の建設キャリアアップシステム利用料
建設キャリアアップシステムを利用して現場管理を行う際は、システム利用料として「管理者ID利用料」、「現場利用料(元請け)」が必要になります。
項目 | 利用料金 |
---|---|
管理者ID利用料(1IDあたり) | 一人親方:2,400 円/年 法人・個人事業主:11,400円/年 |
現場利用料 | 1日・1現場あたり10円 |
管理者ID利用料:管理者ID利用料とは、事業者が建設キャリアアップシステムに登録した事業者や現場情報を管理するために必要となる管理者IDに対する利用料金です。この費用は毎年発生します。
現場利用料:現場利用料とは、建設キャリアアップシステムにおいて現場・契約情報を登録した元請事業者に対してかかる料金です。1現場あたりの登録した技能者の人数に応じてかかる料金です。月末締めの翌月初旬に請求されます。
また、この他の費用としてカードリーダーを設置する費用が元請事業者には発生します。費用は概ね1台あたり1万〜3万円が目安です。
一人親方の建設キャリアアップシステム登録が進まない理由
建設キャリアアップシステムへの登録が義務化されたにも関わらず、一人親方の登録が思うように進んでいないのが現状です。その理由について詳しく見ていきましょう。
登録手続きの煩雑さ
建設キャリアアップシステムへの登録には、事業者登録と技能者登録の2段階の手続きが必要です。必要書類も多く、オンラインでの手続きに不慣れな一人親方にとっては、登録のハードルが高いと感じられているようです。例えば、事業者登録では、登記事項証明書や納税証明書などの提出が求められます。技能者登録では、本人確認書類や資格証明書の提出が必要となります。これらの書類を揃えるだけでも一苦労です。さらに、オンライン上での申請手続きに戸惑う一人親方も少なくありません。
登録料や利用料への抵抗感
一人親方にとって、事業者登録料や技能者登録料、ID利用料などのコストは大きな負担となります。仕事量や収入が安定しない中で、新たな費用負担に二の足を踏む一人親方も少なくありません。これらの費用が積み重なると、一人親方の経営を圧迫しかねません。
メリットが実感できない
建設キャリアアップシステムへの登録によって、技能や経験が適正に評価され、待遇改善につながるというメリットがうたわれていますが、実際にはその効果を実感できていない一人親方が多いのが実情です。例えば、システムに蓄積された就業履歴が、実際の賃金交渉や契約条件の改善に直結していないケースが見られます。また、技能レベルの評価が現場の実態とそぐわないという声もあります。
元請け企業の対応の遅れ
元請け業者が一人親方に対して、建設キャリアアップシステムへの登録方法や必要な手続きについて十分な指導を行っていない場合も考えられます。一人親方が登録の手続きに戸惑い、登録が遅れてしまうことがあります。
元請け企業は、一人親方に情報共有や指導をし、代行登録を円滑に進めることで、一人親方の登録を促進することが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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