- 更新日 : 2024年8月25日
追加工事の請負契約書は作成が必要?法的な義務やひな形、作成時の注意点を紹介
本記事では、建築工事における追加工事の契約書作成の重要性と注意点を解説します。追加工事の定義から、契約書が必要なケース、作成の流れ、無料ダウンロード可能なひな形まで網羅的に紹介。
さらに、追加工事に関連するトラブルや違反事例とその対策も詳しく説明します。建築施工者と施主の双方が、追加工事の契約に関する法的義務を理解し、円滑な工事進行とトラブル防止に役立つ情報が得られます。
追加工事とは?
追加工事は、建築工事において当初の契約内容に含まれていなかった工事を指します。これは設計変更の変更や予期せぬ事態により、建築途中で新たに発生する工事のことです。追加工事は元の契約とは別に、新たな契約を結ぶ必要があります。
建築業界において追加工事はよくあることですが、追加工事が発生した場合、それに伴うコストや工期の変更が生じるため、適切な契約手続きと文書の保存が必要となります。
追加工事の要因
追加工事が発生する要因はさまざまですが、主な要因をいくつか挙げてみましょう。
- 設計変更:施主の要望や現場の状況により、元々の設計が変更されることがあります。例えば、建物の間取りの変更や設備の追加、使用する材料の変更などがこれに該当します。このような設計変更が発生した場合、追加工事が必要となることがあります。
- 予期せぬ問題の発生:建築工事は、予測できない問題が発生することがあります。例えば、地盤が予想以上に弱かった場合や、既存の建物の構造が予想と異なっていた場合などです。これらの問題が発生した場合、追加工事が必要となることがあります。
- 法律や規制の変更:建築業界は、法律や規制の影響を大きく受けます。建築業法や安全衛生法などの法律の変更、または新たな規制の導入により、追加工事が必要となることがあります。
- 施主の要望:施主の要望により、追加工事が発生することもあります。例えば、建築工事が進行する中で新たに追加したい機能や設備が出てきた場合などです。
追加工事の発生を最小限に抑えるためには、設計段階での綿密な打ち合わせや、施工段階での定期的な進捗確認が欠かせません。予期せぬ事態に備えて、ある程度の予備費を予算に組み込んでおくことも賢明な対策と言えるでしょう。
追加工事が発生した場合、速やかに追加工事請負契約書を作成し、双方で合意することが重要です。これにより、後々のトラブルを防ぎ、円滑な工事の進行を確保することができます。
追加工事も請負契約書の作成は義務
建築工事において、追加工事が発生した場合も請負契約書の作成は法律で義務付けられています。建設業法第19条にもとづいて、建設工事の請負契約を締結する際には請負契約書を作成しなければなりません。
この義務は基本的に建設業者が請け負うすべての建設工事に適用されます。災害における復旧工事は、例外として事前の契約書締結がなくても着工可能です。
法律を遵守しない場合、法律違反となり行政処分が科される可能性があります。また、個人顧客との契約の場合は特に、消費者保護の観点からも書面による契約が重要視されています。
追加工事の請負契約書が必要なケース
追加工事の請負契約書は、以下のようなケースで特に必要となります。
設計に変更があった場合
施主の要望や現場の状況に応じて、間取りの変更、材料の変更、設備の追加などが発生する可能性があります。
設計変更に伴う追加工事の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 部屋の拡張や縮小
- 窓やドアの位置や数の変更
- 床材や壁紙の変更
- キッチンやバスルームの設備変更
- 電気設備や給排水設備の追加
これらの変更は、工事の規模や複雑さを増大させる可能性があるため、追加工事の契約書で詳細を明確にすることが重要です。
工期が延長される場合
予期せぬ問題の発生や設計変更などにより、工事の工期が延長されることがあります。工期の延長は、追加の人件費や材料費を伴うため、慎重に取り扱う必要があります。
工期延長を伴う追加工事の契約書には、以下の点を明記します。
- 延長される工期の具体的な期間(工事を施工しない日時も含める)
- 延長の理由と追加される工事内容
- 工期延長に伴う追加費用(人件費や資材の保管費用など)
- 延長期間中の安全管理や近隣への配慮事項
- 天候不良や資材調達の遅延など、不可抗力による更なる遅延の取り扱い
工期の延長は、建築工事全体のスケジュールに大きな影響を与えるため、追加工事の契約書で明確に合意しておくことが重要です。
工事代金が変更される場合
追加工事に伴い、当初の見積もりから工事代金が変更される場合は、必ず新たな契約書を作成する必要があります。金銭に関わる変更は、後々のトラブルにつながりやすいため、特に慎重に対応することが求められます。
工事代金の変更を伴う追加工事の契約書には、以下の項目を記載します。
- 追加される工事の具体的な内容と範囲
- 追加工事に必要な材料や設備の詳細
- 追加される工事代金の金額と内訳
- 支払い条件(支払い時期、分割払いの場合はその詳細)
- 追加工事が元の工事に与える影響(工期や品質への影響)
- 追加工事に関する保証内容
使用する材料や設備が変更される場合
建築工事中に、当初予定していた材料や設備を変更する必要が生じることがあります。これは施主の要望による場合もあれば、材料の供給状況や法規制の変更による場合もあります。このような変更は、工事の品質や耐久性、さらには建物の価値にも影響を与える可能性があります。
材料や設備の変更を伴う追加工事の契約書には、以下の点を含めます。
- 変更前と変更後の材料や設備の詳細な仕様
- 変更理由の明記
- 変更に伴う性能や品質の差異
- 価格の変動(増額または減額)
- 納期の変更や工期への影響
- 新しい材料や設備に関する保証内容
材料や設備の変更は、建物の完成後の性能や維持管理にも影響を与えるため、慎重に検討し、明確に契約書に記載することが重要です。
法規制や建築基準の変更に対応する場合
建築工事の進行中に、法規制や建築基準が変更されることがあります。法令遵守は建築工事において最も重要な要素の一つであり、変更への対応は避けられません。
法規制や建築基準の変更に伴う追加工事の契約書には、以下の内容を盛り込みます。
- 変更された法規制や建築基準の具体的内容
- 法改正の施行日と工事への適用時期
- 追加工事の具体的な内容と範囲
- 追加費用の詳細と負担の割合
- 工期への影響と対応策
- 変更後の建築確認申請の必要性と手続き
法規制や建築基準の変更に伴う追加工事は、建物の安全性や合法性に直結する重要な問題であり、契約書で明確に合意しておくことが不可欠です。
工事請負契約書のひな形・テンプレート-無料ダウンロード
追加工事の請負契約書作成を円滑に進めるため、ひな形やテンプレートを活用すると効率的です。以下より、無料で工事請負契約書のテンプレートをダウンロードいただけます。
工事請負契約書の作成については、以下のページを参照下さい。
工事請負契約書の作成ポイント
テンプレートをもとに契約書を作成する際は、以下のポイントに留意しましょう。
- 追加工事の内容を具体的かつ詳細に記述
- 変更理由を明確に説明
- 追加費用の算出根拠を明示
- 工期の変更がある場合は、その影響を考慮
- 原契約との整合性を確保
- 双方の権利と義務を明確に定義
- トラブル発生時の対応方法を明記
これらのポイントを押さえることで、追加工事に関する紛争を未然に防ぎ、スムーズな工事進行を実現できます。
追加工事で起きがちなトラブル・違反ケースと防ぐ方法
追加工事の内容や費用の認識が一致しない
施主と業者間で、追加工事の内容や費用についての認識が一致しないことがあります。これは、後に金銭的なトラブルを引き起こす可能性があります。
防ぐ方法としては、追加工事の内容と費用を明確に記載した追加見積書を作成し、それを基に施主と業者間で十分な話し合いと確認をします。その後、その内容を記載した追加工事請負契約書を作成・交付します。
口頭での追加工事の依頼
施主が追加工事を口頭で依頼し、正式な契約書を交わさないケースがあります。これにより、工事内容や金額の認識相違が生じ、後のトラブルに発展する可能性があります。このような事態を防ぐためには、必ず書面での合意を取り交わすことが重要です。
追加工事の範囲が不明確な場合
追加工事の範囲が曖昧なまま工事が進行すると、施主と施工者の間で認識の齟齬が生じる可能性があります。これを防ぐためには、追加工事の詳細な仕様書を作成し、具体的な作業内容や使用する材料などを明確にすることが重要です。また、必要に応じて図面や写真を添付し、視覚的にも理解しやすい資料を準備することが効果的です。
追加工事に伴う工期延長のトラブル
追加工事により全体の工期が延長される場合、その影響を考慮せずに進めてしまうと、完成遅延や引き渡し時期の変更などの問題が発生する可能性があります。これを回避するためには、追加工事による工期への影響を事前に検討し、必要な場合は工期の延長を含めた契約変更を行うことが重要です。また、工期延長に伴う追加費用が発生する場合は、その点についても明確に合意を得ておく必要があります。
追加工事費用の支払いトラブル
追加工事の費用支払いに関するトラブルは非常に多く発生します。これを防ぐためには、追加工事の見積書を詳細に作成し、施主の承認を得ることが重要です。また、支払い条件(一括払いか分割払いか、支払い時期など)を明確に定め、契約書に記載することが必要です。さらに、追加工事の進捗に応じた中間金の支払いを設定することで、双方のリスクを軽減できる場合もあります。
追加工事による品質低下の問題
追加工事を急いで行うことで、全体的な工事の品質が低下してしまうケースがあります。これを防ぐためには、追加工事による全体工程への影響を十分に検討し、必要に応じて工期の見直しを行うことが重要です。また、品質管理のためのチェックリストを作成し、定期的な確認を行うことで、品質維持を図ることができます。
追加工事に伴う近隣トラブル
追加工事により、当初の予定よりも工事期間が延長されたり、騒音や振動が増加したりすることで、近隣住民とのトラブルが発生する可能性があります。これを防ぐためには、追加工事の内容や期間について事前に近隣住民に説明し、理解を得ることが重要です。また、騒音や振動を最小限に抑える工法の採用や、作業時間の配慮なども効果的な対策となります。
追加工事によるコスト増の問題
追加工事を行うことで、当初の予算を大幅に超過してしまうケースがあります。これを防ぐためには、追加工事の検討段階で詳細な見積りを行い、施主の予算との整合性を確認することが重要です。また、代替案の提案や、優先順位の設定により、コストの最適化を図ることも有効な方法です。
追加工事による資材調達の遅延
追加工事に必要な資材の調達が遅れることで、全体の工程に影響が出る可能性があります。これを防ぐためには、追加工事の決定後、速やかに資材の調達計画を立て、必要に応じて代替品の検討や、複数の調達先の確保などの対策を講じることが重要です。また、長納期資材については、早期に発注することで遅延リスクを軽減できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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