• 更新日 : 2024年8月27日

労災保険に加入していない個人事業主はどう備えるべき?特別加入制度や代わりとなる制度・保険を解説

労災保険は労働者を保護するための制度です。一人親方(個人事業主)自身は事業主と見なされるため、労災保険の補償対象にはなりません。

しかし、特定の業種・職種の個人事業主は、労災保険に特別加入することができます。この記事では、特別加入の条件や労災保険の代わりとなる制度や保険について詳しく解説します。

個人事業主は原則として労災保険に加入できない

労災保険とは、労働者が仕事中や通勤中に事故に遭った場合や職業病に罹った場合に、治療費や休業補償、障害補償などを行う制度です。しかし、一般的には、個人事業主は原則としてこの労災保険に加入することはできません。

なぜなら、労災保険は労働者を保護するための制度であり、一人親方(個人事業主)自身は労働者ではなく、事業主であると見なされるからです。そのため、個人事業主自身が労働中や通勤中に事故に遭った場合や職業病に罹った場合、労災保険の補償対象にはなりません。

しかし、個人事業主が従業員を雇っている場合、その従業員は労働者と見なされ、労災保険の対象となります。そのため、個人事業主は従業員のために労災保険に加入する必要があります。

個人事業主でも労災保険に特別加入できる業種・対象者

原則として個人事業主は労災保険に加入できないと説明しましたが、例外的に特別加入が認められている業種・職種があり、建設業もそのひとつです。この制度は、業種や職種によって異なる労働災害のリスクに対応するために設けられています。

特別加入できる方の範囲は、中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者の4種に大別されます。一つずつ見ていきましょう。

1.中小事業主等

中小事業主及びその事業に従事する労働者以外の者(役員等)を指します

※加入ができる事業の規模は、業種により労働者数の上限が下記の通り決まっています

  • 金融、小売、不動産、保険業:50人以下
  • 卸売、サービス業:100人以下
  • 上記以外の業種:300人以下

2.一人親方等

労働者を使用しないで下記の事業を行う一人親方その他の自営業者及びその者が行う事業に従事する労働者以外 の者を指します。

  • 運送事業
  • 土木、建築等の事業
  • 漁業、林業の事業
  • 医薬品の配置販売の事業
  • 再生利用の目的となる廃棄物等の収集、運搬、選別、解体等の事業
  • 船員法第一条に規定する船員が行う事業
  • 柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業
  • 歯科技工士法第2条に規定する歯科技工士が行う事業 など

3.特定作業従事者

  • 農業の危険な作業(農作業従事者)
  • 指定農業機械作業従事者
  • 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
  • 家内労働者およびその補助者
  • 労働組合等の常勤役員
  • 介護作業従事者
  • 芸能関係作業従事者
  • アニメーション制作作業従事者
  • ITフリーランス

4.海外派遣者

下記の3種類が該当します。

  • 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される者
  • 日本国内で行われる事業から派遣されて、海外にある一定の事業に従事する事業主及びその他労働者以外の者
  • 独立行政法人国際協力機構等開発途上地域に対する技術協力の実施の事業を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する者

特別加入制度を利用することで、これらの方々も業務上の事由または通勤により怪我をしたり病気になった場合に、労災保険から補償を受けることができます。

労災保険の特別加入制度については、下記記事で詳しく解説しています。

個人事業主が労災保険に特別加入する方法

特定の業種・職種で働く個人事業主は、労災保険に特別加入することができます。特別加入団体に申し込む方法と、新しく団体を作って特別加入の許可を得る方法があるので、それぞれ詳しく見ていきましょう。

特別加入団体に申し込む

個人事業主が労災保険に特別加入するには、個人ではなく、団体としての申請が必要です。そのため、最初は地域の特別加入団体に申し込むことをおすすめします。

特別加入団体が事業主、加入希望者が労働者とみなされ、労災保険が適用されます。特別加入団体は、都道府県労働局長の承認を受けている必要があるので、確認が大切です。

特別加入団体に申し込む手続きは以下の通りです。

  1. 団体の選択:まず、自身の業種・職種に適した特別加入団体を選びます。特別加入団体は、全国的な業界団体や地域の商工会など、さまざまな団体が存在します。
  2. 団体への申し込み:選んだ団体に対して、特別加入の申し込みを行います。申し込みには、自身の事業内容や規模、事業所の所在地などの情報を提供する必要があります。
  3. 団体からの変更届提出:団体は、申し込みを受けた個人事業主全体を代表して、労働基準監督署に変更届を提出します。
  4. 特別加入の承認:労働基準監督署は、申請書の内容を確認し、特別加入が認められるかどうかを判断します。特別加入が認められると、労働基準監督署から特別加入の証書が交付されます。

新しく団体を作る

特別加入団体に申し込む代わりに、個人事業主自身で新しく団体を作ることもできます。これは、特定の業種・職種の個人事業主が集まり、共同で労働基準監督署に特別加入申請書を提出する方法です。

新しく団体を作る手続きは以下の通りです。

  1. 団体の設立:まず、同じ業種・職種の個人事業主を集め、新たな団体を設立します。団体の設立には、団体の目的や規約、役員の選出など、多くの手続きが必要です。
  2. 団体からの申請書提出:団体が設立されたら、団体を代表して、労働基準監督署に特別加入申請書を提出します。申請書には、団体の情報と、団体に参加する個人事業主の情報を記入します。
  3. 特別加入の許可:労働基準監督署は、申請書の内容を確認し、特別加入が認められるかどうかを判断します。特別加入が認められると、労働基準監督署から特別加入の証書が交付されます。

個人事業主が労災保険に特別加入するといくら支払いが必要?

個人事業主が労災保険の特別加入を行う場合、保険料は給付基礎日額に基づいて計算されます。給付基礎日額は、個人事業主自身が選ぶことができ、日額3,500円から25,000円の範囲で設定することができます。

具体的な保険料の計算方法は以下の通りです:

  1. 給付基礎日額の設定:まず、個人事業主は自身の経済状況やリスク許容度に応じて、給付基礎日額を設定します。
  2. 年間保険料の計算:次に、給付基礎日額を365日で掛け、年間の保険料算定基礎額を算出します。
  3. 保険料の算出:最後に、保険料算定基礎額に労災保険率(建設業の場合、記事公開時点では0.017)を掛けることで、年間の保険料を算出します。

例えば、給付基礎日額を8,000円と設定した場合、年間の保険料は以下のように計算されます:

8,000円/日×365日×0.017=49,640円

つまり、年間で約49,640円、月額に換算すると約4,137円の保険料が必要となります。

個人事業主の労災保険の代わりとなる制度や保険

個人事業主が労災保険に加入していない場合、労災事故に遭った際の補償を受けることができません。そこで、労災保険以外にも、個人事業主が補償を受けられる制度や保険について解説します。

民間の傷害保険

「民間の労災保険」と呼ばれる保険は、民間の損害保険会社が提供する保険商品の一つで、一般的には傷害保険と呼ばれます。しかし、厳密には公的な労災保険の代わりとなるような、労働者としての個人事業主本人を守る「民間労災保険」は存在しません。

「民間の労災保険」は保険会社により保険料や補償内容も様々で、事故や病気による収入の減少を補償することも可能です。しかし、民間の労災保険には注意が必要です。公的な労災保険と比較して、補償の範囲が広いとはいえ、保険料が高くなる傾向があります。また、保険金の支払いは掛け金に応じた保険金が給付され、全額補償されるわけではありません。そのため、保険に加入する際は、保険料や補償内容、保険会社の信頼性などをしっかりと確認することが大切です。

民間の財団法人

労災保険に加入できない個人事業主でも、自身を事故や病気から守るための制度を提供しています。

  • あんしん財団:あんしん財団は、中小企業の健全な発展と福祉の増進に寄与することを目的に設立された公益財団法人です。月額2,000円の会費で、ケガの補償、福利厚生サービス、災害防止サービスの三事業を提供しています。また、補助金制度も提供しており、職場の環境改善のための補助金制度や、特定の設備を設置(購入)した場合に要した費用の一部を補助する制度などがあります。
  • 日本フルハップ公益財団法人:日本フルハップ公益財団法人は、中小企業の健全な発展と福祉の増進に寄与することを目的に設立された公益財団法人です。月額1,500円の会費で、ケガの補償(共済)、安全快適な職場づくり(助成)、福利厚生の充実(健康管理の支援、余暇の活用支援)などすべてのサービスを提供しています。

小規模企業共済

小規模事業共済とは、小規模企業(事業)の経営者や役員の方が、廃業や退職時の生活資金などのために積み立てることのできる、いわば「経営者のための退職金制度」です。

この制度は、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構によって運営されており、常時使用する従業員の数が20人以下(商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は5人以下)の個人事業主または会社等の役員が加入することができます。

小規模企業共済の掛け金は、月額1,000円から7万円までの範囲で自由に選び、支払い時は所得の控除をすることが可能となり、受け取り時も退職所得として税金負担が軽減されます。6カ月以上積み立てると、廃業した場合に共済金を受け取ることができ、退職金代わりにすることができます。

労災保険に加入していない個人事業主のリスク

労災保険に加入していない個人事業主は、業務上や通勤時の事故によるケガや病気のリスクを自ら負わなければなりません。そのため、自身を事故や病気のリスクから守るために、他の制度や保険に加入することを検討する必要があります。

自己負担のリスク

労災保険に加入していないと、事故や病気による費用を自己負担することになります。重大な労災事故が発生すると、大きな医療費が発生し、経済的な負担が増します。例えば、高額な手術費用や長期入院が必要な場合、数百万円以上の費用がかかることもあります。

損害賠償リスク

第三者に対して損害を与えた場合、労災保険が適用されないと損害賠償責任を負うことになります。特に従業員を雇用している場合、従業員が労災事故に巻き込まれた際の補償が必要です。また、取引先や顧客に対しても責任を持つことが求められ、損害賠償金額は被害の大きさによって数十万円から数百万円、もしくはそれ以上になることがあります。

案件を受注できない

特に、建設業を営む一人親方は、労災保険に加入していないと、案件を受注できない可能性があります。これは、案件を発注する際の条件の一つに、「労災保険に加入していること」を掲げる企業が多いためです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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